東京高等裁判所 平成9年(ネ)2636号 判決 1997年12月17日
東京都目黒区中町二丁目三二番四-一〇一号
控訴人(原審原告)
篠塚賢二
東京都大田区中馬込一丁目三番六号
被控訴人(原審被告)
株式会社リコー
右代表者代表取締役
桜井正光
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 控訴人の求めた判決
原判決を取り消す。
本件を東京地方裁判所に差し戻す。
第二 平成九年七月二二日受付の「控訴理由書」と題する書面に記載された原判決の判示に対する控訴人の主張の要点
原判決は、「本件訴えは、・・・ことさらに被告の応訴のための負担を強いることを意に介さず、民事訴訟制度を悪用したものであるとの評価は免れない。」というが、昭和四二年一一月三〇日に倒産のやむなきに至った会社の代表者であった控訴人は、未だいろいろな重荷を負い続けているから、一部請求をせざるをえない経済的事情があり、それを「ことさらに被告の応訴のための負担を強いることを意に介さず」とされるいわれはない。また、控訴人は、法律専門家ではなく、未だ法律知識も豊富とはいえず、民事訴訟制度を悪用するなどということは、到底不可能であると同時に、思いも及ばぬことである。「控訴人が民事訴訟制度を悪用するものである」ということは、原判決添付別表(甲)の15事件及び別表(乙)の13事件において、被控訴人が言い出したことであるが、そのような控訴人にとって不可能なことを主張することは、被控訴人が本件実用新案権を侵害した証左というべきである。
したがって、控訴人の本件訴えが、信義則に反するもので、訴権の濫用に当たるということはできず、本件訴えは、訴えの利益のある適法なものである。
第三 当裁判所の判断
本件記録に照らすと、本件の事実関係は、原判決「事実及び理由」、「第二 事案の概要」(原判決二頁五行から七頁末行まで)記載のとおりであることは明らかであるところ、この事実によれば、前示「控訴理由書」記載の控訴人の経済的事情や控訴人の法律的知識の程度を考慮しても、控訴人が、主張の本件実用新案権侵害に基づく不法行為又は不当利得の請求をことさら細かく分割して、一部請求を繰り返さなければならない合理的理由を見いだすことはできない。
そうすると、本件訴えの提起は、一部請求の名の下に、ことごとく敗訴の判決を受けた各訴えと実質的に同一の訴えを蒸し返すものであり、民事訴訟において要請される信義則に反するものであって、訴権の濫用に当たり、不適法であって、しかもその瑕疵を補正することができないものというべきである。
よって、これと同じ理由で本件訴えを却下した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法二〇二条、三八四条に則ってこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)